リピートを増やす顧客満足度101%の取り組み

EC事業を行なっていると、一度はCS(Customer Satisfaction=顧客満足)という言葉を聞いたことがあるでしょう。モノが溢れる時代において、価格訴求力や品揃えだけで差別化することは難しく、ユーザは「誰から買うのか」が商品購入の判断基準になってきました。

何度も購入したくなるお店の共通点は、CSに優位性があることです。今回は、リピートにつながるCSについて説明します。

CSとは

ASCII,jpデジタル用語辞典によると、以下のように書かれています。

企業が提供する商品やサービスによって得られる、「顧客の満足」のこと。顧客満足ともいう。先進国ではモノの普及率が高まり、顧客の要求水準が向上したため、企業は安定して継続的に顧客を確保することが困難になっている。そのような中、企業はCSを戦略に取り込むことで対象となる顧客を絞り込み、提供する価値を差別化することが重要になりつつある。CSを数値化した顧客満足度を定期的に評価することで、次期商品開発につなげる企業も多い。

昨今では、顧客満足を昇華させてCX(Customer Experience=顧客体験価値)が提唱されていますが、根本となる考え方は同じです。注意点としては、CS調査をした際に「非常に満足」「満足」「普通」「不満」「非常に不満」といった5段階の平均値による評価では、顧客ロイヤルティは計測できない点です。

この調査方法の問題は、合理的な満足なのか、感情的な満足なのかは観点に入っていない点です。店舗レビューにおける評価は高いのにリピート率は低いのであれば、「感情的な満足」が足りていない可能性があります。

参考:野村総合研究所より抜粋

合理的な満足を上げるには、物理的な価値を提供する。それに対し、感情的な満足を上げるには、経験的な価値を高める必要があります。

合理的・感情的な満足によってCSが向上していくと、リピーターが増加することはもちろん、リピーターの口コミから新たな顧客を獲得できたり、それによってブランド力の向上、収益の安定化が図れます。

顧客獲得コストが日増しに上がっていく中、CSへの取り組みは必須となってきました。

ザッポスのCS戦略

優れた顧客対応で最も成功したのはザッポス・ドット・コムではないでしょうか。ザッポスの事業は靴のネット販売で、オリジナル商品がある訳ではなく、独占販売しているブランドもありません。

もともと靴は試着しないとサイズ感が分からず、ネット販売には不向きとされるジャンルです。ザッポスではネット販売の黎明期には考えられなかった4つの戦略を打ち立てます。

1.全品送料、返品無料
2.返品は無制限でOK
3.原則として翌日配送
4.24時間365日の顧客対応

ネット黎明期のECは「オンリーワンなものをより高価格で」というのが評論家の見立てで、高リスク低収入な事業モデルは採算が合う訳がないと一蹴されていました。結果としてAmazonに800億で買収されるまでに成長したその背景には、上述の戦略に加えて「神」対応が挙げられます。

ザッポスには顧客対応のマニュアルやトークスクリプトはなく、徹底的に顧客に寄り添うことが求められています。

顧客が満足するなら何をしてもよく、例えば顧客が求めている靴のサイズの在庫がなかったら最寄りの靴屋から探し当てたり、間違ったサイズや色の靴を送ってしまった顧客には謝罪とともに無償交換、有償のプレミアム会員に無償登録を案内したりします。

このような対応によって顧客の満足が得られると「感動レシピ」として組織内で共有し、新しいスタッフもどう接したらいいのかを学ぶことができるようになっています。スタッフは売上と顧客満足度で評価されるため、自由裁量が与えられた顧客対応によって満足度を高め、満足された顧客の口コミによってファンをどんどん増やしていきました。

これに似た日本のサービスでは塚田農場が挙げられます。アルバイトには1テーブル500円までの自由裁量が与えられており、テーブルに残ったメニューを再調理、アレンジの提案をして顧客の満足度を高めるなど、個々のスタッフが日々アイデアを練っています。

顧客満足度を高めることは、顧客と長く付き合っていく中で必須ですが、120%の満足ではなく、101%の満足を提供し続けることが肝要です。

それはなぜか。

期待値を大幅に超える120%の満足度は、維持し続けることが困難だからです。120%の満足度を得るためには、あらゆる企業努力が必要なうえ、2回目、3回目の購入時にも同じように120%の満足を求めてしまうため、徐々に期待値を超えられなくまります。

顧客の期待をほんの少し上回る101%の満足度で、長く付き合いが続くようにしましょう。

どのように顧客満足度101%の設計をするのか

顧客満足度101%の設計は、対人関係における気づきのグラフモデルであるジョハリの窓を活用すると施策が見えてきます。

参考:野村総合研究所より抜粋

第一象限:盲点の窓

顧客が気づいているが、自社は気づいていない盲点の窓は、顧客の不満や要望を解消して満足度を高める施策を講じます。

苦情や問い合わせ、質問、店舗レビューから課題を発見する方法と、Google Analyticsなどの解析ツールを使って必要以上に滞在時間の長いページや離脱率の高いページから課題を発見する方法があります。

第二象限:開放の窓

顧客も自社も気づいている開放の窓は、顧客の当たり前を、当たり前に実行します。ここでいう顧客の当たり前とは、過剰なサービス要求への対応ではなく、長くお付き合いしたい顧客の当たり前に焦点を当てることです。

同じ業態のお店やライバル会社で商品を購入したり問い合わせをして、より品質の高いサービスを見つけ出す方法もあります。

第三象限:秘密の窓

顧客は気づいていないが、自社は気づいている秘密の窓は、顧客に先回りして行動していきます。

これにはKARTEなどのWeb接客が最適で、ご注文前に悩みがちなポイントをポップアップでナビゲートしたり、ニッチな問い合わせにチャットで対応するなど、よりポジティブな感情に導きます。

第四象限:未知の窓

顧客も自社も気づいていない未知の窓は、世の中にもない価値かもしれません。いかに顧客のニーズ、ウォンツを見つけるかが課題で、ヒントは他業種、他業態から得られることが多いです。
普段の生活で、出先で、会話の中で得られた気づきを俯瞰して自社のサービスに活かせないか習慣的に行うスキルが必要になってきます。このスキルはメタ思考と言い、とても長くなってしまうので別の記事で紹介したいと思います。

CSの実践例

気の利いたおまけ

自転車のタイヤには軍手を、洗顔石鹸には泡立てネットを、アクセサリーにはミニクロスを。無いと不便だけど、なくても何とかなるような場合におまけをつけます。年末であれば自社のロゴ入りカレンダーをお届けすれば、年中ブランドと接することにもなります。

ブランドロゴ入りの箱

配送の箱の工夫ではZOZOが抜きん出ています。基本の黒に白文字の箱や、お年玉箱、GODIVAとのコラボ箱など、受け取った時の楽しみを演出をしています。もともとはお中元やお歳暮に、百貨店のロゴ入り箱でお届けするとテンションが上がったことが起源と言います。箱を見るだけで顧客のテンションが上がる効果的な戦略です。

創業者のお手紙

商品が気にいると、その商品の開発や取り扱いの背景も知りたくなります。そのような衝動にかられたタイミングで、創業者や経営者の理念、社会活動に触れることでより好きになる可能性が高まります。MONOCOやマダムシンコは創業者の思いを同梱物に入れることで、にわかファンを本当のファンに引き上げることに成功しています。

保証期限前の連絡メール

まだ筆者自身も体験していないサービスですが、電気製品の多くは1年保証になっています。ソニータイマーと揶揄されるように、保証期間が切れた直後に不具合が発生すると、フラストレーションが溜まります。保証期間が切れる1ヶ月前に不具合が起きていないか確認する連絡が来ると、ユーザ登録率もアップし、顧客と長期の付き合いができるでしょう。

使っていないサービスの解約オファー

Netflixで知られる、サービスを一定期間お使いになっていないユーザに対して、サービスの一時停止をメール案内するものです。企業視点では何もしない方が収益は増えますが、ユーザ視点では本来的には当たり前になって欲しい動きでしょう。特に携帯電話では初期の契約時に割引となる不要なオプションを外し忘れて、何年も使っていないサービス料を払い続けるケースが見られます。

まとめ

単なるモノ売りでは、永続的な事業にならないと感じていると思います。顧客の期待をほんの少しでも上回ることができれば、2回目、3回目と継続的にご購入いただけるようになります。また、口コミで新たな顧客も紹介してくれるようになるでしょう。

ご自身が嬉しかった体験はザッポスの感動レシピのように累積して、自社の顧客満足を上げる取り組みにつなげていきましょう。