行動経済学からみた最適価格設定方法とは

「なかなか売上が立たないから、もっと安くしないといけない」

このような思考による価格変更は利益を下げるだけでなく、売上をも下げてしまう可能性があります。商品の販売価格とは、その商品価値を数値化したものなので顧客にとって適正な価格というものが存在します。

適正な価格とは

まずは以下の表をご覧ください。

顧客には払ってもいいと感じる下限価格と上限価格があり、この範囲が競争市場になっています。この価格帯のことを価格弾力性といい、顧客調査に基づくものなら価格感度分析と言います。

下限価格を下回ると「安すぎて怖い」「欠陥品では」といった疑念が生じ、上限価格を超えると「高すぎて買えない」という思考になります。基本的にはこの価格帯の中で値付けをしていくことになりますが、どのように考えていけばいいのでしょうか。

そのヒントになるのが、価格の心理学(リー・コールドウェル著)に書かれた以下の一文です。

「顧客は自分が何を欲しがっていて、それにどれくらいの額を払う気があり、実際に売っていたとして本当に買うのか分かっていません。」

主婦や女子大生と一緒に開発した商品や、モニターアンケートで価格を決定した商品が売れない理由のひとつに、顧客は商品価値が分からないということが背景にあります。特に日本は値切り文化ではなく、値切り行為そのものを恥ずかしい行為であると考えている方が大多数です。

そのため、売り手が設定した価格=商品価値と受け取る傾向にあるのです。中国や東南アジアに行かれたことがある方なら、様々な手段で商品を高値で売ろうとする、売り手の姿が思い浮かぶのではないでしょうか。

良い値付けと悪い値付け

良い値付け、悪い値付けの例を紹介していきます。

悪い値付け

原材料費にお店の利益をのせた販売価格。
この価格設定は素材+お店の手数料を表現していることで、顧客に「あなたにも作れますよ」というメッセージを植え付けることになります。

良い値付け

マーケットにおける相対的価値を表した販売価格。
例えばコーヒーの価格は1杯あたり以下のような感覚ではないでしょうか。

・お湯で溶かしてのむパウダータイプ:50円
・缶コーヒー:120円
・喫茶店のコーヒー:300~500円
・ホテルのコーヒー:700~1,000円

もし自社の商品がパウダータイプのコーヒーであっても、ホテルのコーヒーを自宅で体験できる価値があるならば300~500円で販売することもできます。

このような場合、商品説明には以下のような工夫をする必要があります。

・挽き立て豆を真空パックにする
・ブルーマウンテンがブレンドされている
・イメージ画像にはロイヤルコペンハーゲンのカップを使っている

どのように商品価値を向上させるのか

行動経済学の観点でアプローチをご紹介します。

バンドワゴン効果

人気があると分かると、もともと関心がなかったとしても興味を示してしまう効果

例:タピオカ、ブルーライトメガネ

バンドワゴン効果を高めるには、とにかくNo.1などの実績を出します。売上や業界シェアなどでなくても、伸び率やアンケート結果、モンドセレクション、特定地域でも構いません。注意すべきは、対象の顧客が興味ある分野でNo.1であるか、客観的データに基づいているかという点です。

楽天市場の商品の中では、No.1のバナーをよく目にします。これはバンドワゴン効果を狙ったものと推測されます。

損失回避性

得をするよりも、損することに過大な反応をしてしまうこと

例:全額返金保証、初月無料、体験コース

購入後の失敗リスクによって躊躇させないために、失敗したときのリスクを実質0にする方法を提示します。特に数ヶ月に渡って継続課金するようなビジネスモデルの場合に有効で、まずは一ヶ月お試ししてもらうことで、価値を感じてもらいます。

Nikeの場合、単品販売であっても商品のサイズ変更を無料で行うことができます。同時に5点購入し、4点返品してもOKというサービスです。もちろん全て返品してもOKです。画面越しで素材感やフィッティングを伝えるのが難しい反面、ノーリスクなら定価販売も受け入れやすくなります。

おとり効果

コントラスト効果とも呼び、明らかに選ばれる可能性が低い選択肢を設けることで、意図的に選ぶ対象を決めさせること

例:おせち、腕時計

人はなるべく客観的に評価しようとしますが、どうしても周辺情報に影響を受けます。よく見かけるのは松竹梅のラインナップです。最上位商品であるを用意することで、中間となる竹を選んでもらう確率が上がります。例えば以下のような値付けです。

松: 10万円
竹: 3万円
梅: 1万円

このように上位モデルとの差異を大きくすると、中間となる商品が選ばれる確率が上がります。
注意点は、おとり商品を用意していなかったり、極端に在庫が少ない場合はおとり広告となり、景品表示法違反となるため注意が必要です。

値下げする時の注意点

顧客は、商品を安く購入できたり、お得感を得た場合に喜びを感じます。逆に損をしたときは、得をした時以上のダメージを感じることになります。上述した損失回避性が機能するのも、この心理的影響と言えます。

例えば、自分が昨日購入した服が今日はセール価格になっており、ショックを受けたという経験はありませんか。

このような経験をした店舗に対しては「安くなってから買おう」とインプットされてしまいます。安くしないと売れなくなっている店舗は、この連鎖にはまっていることが多いと感じます。
価格変更する際には予告をしたり、メールでお知らせするなど損をしたと思われない工夫をしていきましょう。

まとめ

あらかじめ販売価格を決める場合がほとんどかと思いますが、これからはAIの技術を活用した値付けも進むと考えられます。

例えば、AmazonではAIがWeb上をクロールして市場価格のデータを収集し、在庫や売上の推移から最適な価格を更新し続けています。楽天市場でも顧客に合わせてクーポンを自動発行する仕組みや、価格最適化のサービスもスタートしています。

これらの条件によって、商品やサービスの価格が変動する仕組みをダイナミック・プライシングと呼びます。時期(閑散期と繁忙期)・在庫量・販売終了日など市場環境に合わせた値付けから、優良顧客と新規客で差別化するなど、価格を調整するアプローチは増えていくと思います。

売上最大化に向けた価格に更新し続けるというビジネスモデルもありますが、ブランド維持の観点では顧客の離反要因になる可能性もあるため、導入は慎重に検討いただきたいと思います。